弟の依存と兄の苦悩
人は当たり前でないことでも、それが続けばいずれ当たり前になる。かつて実家に寄生し、父に金の無心を繰り返した敬が、その矛先を昭に向けるまでに時間はかからなかった。雨漏りの修繕で財布を開かせたことを機に、敬は生活費の要求も繰り返すようになった。
「給料が入るまで生活できないから3万円貸してほしい」
「ちょっとお金を借りたいんだけど、保証人ってなってもらえたりする?」
「来年の固定資産税もきっと無理かなー」
貸したお金はもちろん返ってこない。無心はひたすらひどくなっていく。
ある日、昭が帰宅すると、目を泣きはらした有希から強く糾弾された。
「なんであなたの弟の面倒を私たちが見なければいけないの? こんなの娘にも悪影響よ」
いつも通り昭はひたすらに耐えるが、有希の心は限界を迎えていた。
翌日、有希は真名を連れ実家へ帰っていった。
妻子が去り、弟が押しかけた修羅場の夜
妻と娘が出ていってから半年ほどたったころ、夜の20時過ぎに昭に突然の来客があった。玄関を開ければそこには敬の姿があった。
とりあえず家に入るよう促しコーヒーを出すと、敬は悪びれる様子もなく、冗談でも言うかのように笑いながら話をし始めた。
「お金全部なくなっちゃった」
「もう家売ってお兄ちゃんと住みたいんだけど、どう?」
勝手に話を進めようとする姿を見て、昭に我慢の限界が訪れる。
「もう勝手にしろ! お前とは縁を切る! 俺は妻も子供も、お金も全部お前のせいで失ってるんだ。もうこりごりだ!」
昭は敬を無理やり追い出し、その日は早々に床に就いた。外で敬が叫びわめく声が聞こえたような気もしたが無視したという。
だが翌日からなりふり構わない敬に頭を悩ませることになる。職場や共通の知人の家、行きつけの飲食店と、ありとあらゆる場所に昭がいないか聞いて回るようになったのだ。そして次第に昭は周囲から距離を取られ、腫物に触れるように扱われるようになった。
