夫が明かした失敗

和弘は暗い顔で説明をする。

「そんなに珍しいことじゃないだろ? これから祐の学費だってあるんだし、単に節約をするだけじゃ心もとないと思ってさ。知り合いから勧められてやってみたんだ。最初はかなり順調だったんだけどね……。損した分をどうにか取り返そうと思って、色々投資先を増やしたり、額を増やしたりしてみたんだけど」

「それで、貯金使い込んじゃったの……?」

「ごめん……。でもほら、FIREって言葉、聞いたことない? 祐が大学卒業したらタイミング見て、退職してさ、2人でのんびり過ごせたらいいなって思ったんだ」

「もう……」

もちろん怒りはあったが、そこまで強く言う気にもならなかった。遥香もパートはやっているがほとんど稼ぎは和弘に頼っている状態だし、何よりも家族のことを思ってやったことだというのなら、強く責めても仕方がなかった。

「やったことはしょうがないけど、ちゃんと言ってよ。家族のことなんだから」

「本当にごめん。後ろめたくて言い出しづらくて……」

「……生活自体は問題ないし、祐の合宿免許のお金も出せるしね。今回は仕方ないから大目に見るけど……もう投資なんて手出さないでよね」

遥香の言葉に和弘は頭を下げる。

「本当にごめん。もうやらないよ」

遥香はため息を吐いた。それで、夫婦のあいだにある隠し事はぜんぶ吐き出し終えたつもりでいた。

   ◇

しかし本格的な夏を迎え、免許合宿に出かける祐を見送った日、家のポストに督促状が届けられた。

宛名は和弘だった。郵便受けに入ったオレンジ色の封筒を見た遥香はそのまま呆然と固まってしまった。

●倹約家の夫・和弘が投資に失敗し、20年分の貯金を失っていたことを知った遥香。家族のためだったという言葉を信じ、夫を許すことにしたが、ある日、消費者金融からの督促状が届く…… 後編【「本当に投資?何にそんなにお金を使ったの!」倹約家の仮面を被った夫の裏切り…18歳息子の進学の危機】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。