月末の夜になると遥香は夫の和弘と家計について話し合いをするのが恒例となっていた。
「ちょっと今月は食費が高かったね。これって何か原因はある?」
「ここ最近、いろんなものが値上がりしてるのよ。便乗値上げってやつ。だからどうしても食費はかかっちゃうのよね」
遥香が答えると、家計の管理を担っている和弘は光熱費や食費などを記入しているアプリの画面から顔をあげた。
月末恒例の家計チェック
2人の間には一人息子の祐がいる。18歳の食べ盛りで、遥香としても美味しいものをできるだけたくさん食べさせたいという思いがあった。そのため食費はどうやってもかかってしまう。
「うーん、高騰はね、俺たちにはどうしようもないことだから仕方ないけど、もうちょっと頭を使って買い物しないとな。ほら、たとえばここ。こんなに買わなくても、安いときを狙えばもっと節約できるでしょ」
和弘は世間から見れば、かなりストイックな倹約家と呼ばれる部類に入るだろう。しかし遥香は和弘の過剰な倹約に対して、あまりストレスを感じたことはなかった。祐の進学や自分たちの老後のことを考えると節約は絶対に大事だし、こちらに押しつけるばかりでなく和弘は自分自身にも無駄遣いをしないようにしている。そもそも遥香にはこれといった物欲がないこともいい方向に働いているのだろう。
このまま2人で力を合わせて家計を守っていければいいなと遥香は思っていた。
◇
5月に入ったあるとき、遥香がパートが終わり夕飯の準備を始めようとすると祐が声をかけてきた。
「あのさ、俺、免許取りに行きたいんだけど」
「え? 免許って車の?」
「そうそう。夏休みに合宿で免許を取りに行くって友達が言ってるからさ。俺も一緒に行きたいんだけど」
遥香は少しだけ考える。
合宿であれば2~3週間くらいの期間で免許を取ることができる。となると夏休みを利用すれば取れないことはない。ただ大学受験を控えた大事な夏休みを免許取得のために使って良いのかどうか気になった。
「勉強は大丈夫なの?」
「大丈夫。俺、第一志望のところは模試でもB判定取ってるから。それに向こうでも勉強はできるし」
祐が真面目に勉強を頑張っているのは遥香も知っているので、そのあたりの信頼は十分にあった。大学に行って1人暮らしをする予定なので身分証代わりとしても使えるし、今のうちに取っておくのもありだろうか。
「そうね。それじゃその資料を見せてくれる? お母さんが手続きをしておくから」
