繰り返される遅延とクレーム

「まったく時間指定が聞いてあきれる。守れないのなら最初からそんなサービスを打ち出さなければいいものを」

「申し訳ございません……ありがとうございました」

ようやく受け取りが終わり、無言で扉が閉まると、晴美は駆け足で車に戻った。スマートフォンの画面には、直前まで維持していた評価の数字が、ひとつ下がって表示されていた。ため息をついてエンジンをかける。

次の配達まで、あと8分。巻き返せるかは分からない。高田宅の黒い門柱を横目に、晴美はアクセルを踏み込んだ。

   ◇

朝から曇り空だった。

気温はそれほど高くないが、午後の配達に差し掛かる頃には、晴美の背中にはじっとりと汗が滲んでいた。

高田宅の名前がアプリに表示された瞬間、喉の奥がざらつくような感覚が戻ってくる。前回の遅延が影響したのか、彼が苦情を入れたせいか、今回は優先枠の上位に食い込んでいた。ニュータウンでの配達を何件か済ませて車に戻った時、ちょうど電話が鳴った。少し迷いながらも応答すると、相手は高田だった。

「今どこだ? 何時に着く?」

「……13時半頃に到着する見込みです」

「分かった、13時半だな」

すぐに電話は切れた。

しかし、運悪く渋滞に捕まってしまい、高田宅に到着したのは、13時55分頃だった。恐る恐るインターホンを押すと、すぐにドアが開く。怒声は前回ほどではなかったが、高田の苛立ちは明らかだった。

「いい加減にしろ。配達員がそんなに時間にルーズでいいのか」

「申し訳ありません。ただ今回のお荷物は12時から14時までの指定でしたので……」

「14時に間に合ったから褒めろってか。こっちはわざわざ電話して確認を入れてるんだぞ。おかげで、外出の予定が狂ったじゃないか。どうしてくれる」

「恐れ入りますが、お電話でお伝えしたのはあくまでも到着目安になります。道路状況など変わることもありますので……お忙しい方には置き配サービスという……」

「おい、置き配とか、ふざけたことするなよ。楽しようとするな」