陽光が差し込む昼間のオフィス。目の前のモニターから視線を上げた友梨佳は、新しい部下の横顔をちらりと見た。

彼女は山内梨乃。先月中途採用で入ってきたばかりの新人だ。20代後半だが、既に3度の転職を経験しているらしかった。

「山内さん、ちょっといい?」

「はい、何でしょう?」

「この見積書、全部で24件あるんだけど、ファイル整理お願いできる? 金額の再確認と、PDFの保存まで含めて今日中にやってほしいんだけど」

営業から上がってきた紙の見積書ファイルを手に、梨乃の席に近づくと、彼女は短く「わかりました」と答え、無駄のない動きでPCに向かった。資料作成も引き継ぎも正確で、部署に来て3週間とは思えぬほど馴染んでいる。

「それじゃ、よろしくね」

友梨佳は足早に自分のデスクへ戻った。

忙しい最中の出来事

今はちょうど繁忙期で、営業企画部は息つく間もない。午後になると、さらにもう一段フロアは慌ただしくなった。電話が立て続けに鳴り、友梨佳は顧客との対応に追われた。営業部長の承認印をもらいに別フロアへ行き、そのまま部下に呼ばれ、報告書の内容確認をすることになった。

自分の席に戻ってきたのは18時を過ぎた頃だった。

「あれ?」

ふと自席に戻る途中、梨乃の席が空になっていることに気づいた。机の上はきちんと片付けられ、PC画面も暗くなっている。タイムカード代わりの勤怠システムを確認すると、17時30分の打刻がされていた。

定時退社。

しかし、依頼した見積書の整理ファイルを確認すると、12件目以降のPDF保存がされていなかった。確認欄も空白。進捗メモも残されていない。