あふれだす複雑な感情

「酒も、借金も、ギャンブルも、母がどんなに我慢して過ごしてたか、わかってたはずだよ。胃薬、いつも台所に並んでた。夜は電気つけっぱなしで、眠らなかった」

喉がからからに乾いていた。恵は一度言葉を止めて、膝の上の手に視線を落とした。

「あなたが何を考えてたのか、今まで何一つわからなかった。でも……家にあったビデオとノート見たら……」

声が、思わず震える。自覚する前に、視界の端がにじんでいた。

「そんなの……ずるい。そんなふうに、私たちに隠れて1人で、何十年も……」

父に文句を言ってやろうと思っていたのに、もう何を言っているのか、自分でもわからなかった。目の奥が熱くなり、涙が静かに頬を伝った。だが、恵は拭わずにそのままにしていた。

「勝手にいなくなったあなたのこと憎んでた。怒ってた。だけど……本当に、それだけだったかは、わからなくなった」

静雄の喉がごくりと動いた。ほんのわずか、肩が上下する。その呼吸の浅さが、逆に生命を感じさせた。

「……とにかく、もう……ふざけんなって話だよ。お父さんのせいで、ずっと大変だったんだから」

静雄は動かず、だが確かにこちらを見ていた。ただ、そこにいるということだけが、恵に届いていた。口を開かずにいてくれることで、恵は最後まで話すことができた。憎しみも、やるせなさも、名のない思いも、すべて。