美奈子は洗濯物を干そうとベランダに出る。じっとりとした空気と刺すような太陽光にうんざりする。

美奈子の2人の息子、徹と健太ははわんぱく盛りで、夏休み中ともあれば毎日外へ遊びに出かけ、何かと服を汚して帰ってくるので洗濯物はとても多い。今年の異常な暑さもあいまって、毎日洗濯するだけでもかなりの重労働だ。洗濯物が乾きやすくなる以外にメリットが見つからない季節に美奈子はため息をつきながらバスタオルを慣れた手つきで干していた。

洗濯物を干し終わると次は掃除に取り掛かる。2年前に夫の卓夫がローンを組んで購入した念願のマイホームだから掃除はいつも丹念に行う。

大量に防災用品を買い込む姑

2階の子供部屋の掃除機をかけ終えて階段を降りると、下から物音が聞こえた。降りて音のする方を確認すると同居している義母の喜代がストールームで何かしていた。喜代の足下にはお気に入りのエコバックが置かれている。美奈子はまた何か買ってきたのかと思い、聞こえないようにため息をつく。

「またお買い物ですか?」

「ちょっと新しい保存食を買ってきたんだけど、入るスペースがなくてね~。整理してるのよ」

喜代は声を弾ませている。

パンパンにものが敷き詰められたストールームはいつの間にか喜代のテリトリーになっている。なかに入っているのは水や保存食、カセットコンロやガスボンベ、懐中電灯などの防災用品がほとんどだ。

もちろん備えあれば憂いなしという言葉通り、災害対策は大切だ。けれど喜代の収集癖は明らかに過剰だと思う。

喜代が防災用品をかき集めるようになったのは、東日本大震災を経験してからだと夫は言う。美奈子は直接被災したわけではなかったが、連日報道されるニュースを目の当たりにして危機感を覚えた記憶があるから、喜代が心配をするのもよく分かる。

だとしてもやりすぎている。何より、防災用品を買い集めるお金はすべて、夫の卓夫が小遣いとして出していることが頭の痛い問題だった。