救いのない法制度の現実
「初めまして。永田と申します」
私と永田さんが初めて会ったのは、彼の父・稔さんの買い物依存について、クーリングオフや成年後見制度の利用について相談を受けた時だった。当時、永田さんは相当に疲れ切った表情をしていた。
私は永田さんから事の経緯を聞いた上でまずクーリングオフが使えないことを伝えた。そのことに驚く彼にこう補足する。
「クーリングオフは主に相手から接触され、それが突発的だったため冷静に判断できなかった場合に主に適用されるものです」
そう言うとすかさず「フリマアプリだって冷静に判断できないのでは?」と永田さんが食い下がる。
しかし、悲しいことに法はそう判断をしない。通販やスマホアプリは購入者自らアクセスしている。お店に自ら出向いた場合にクーリングオフが適用されないように、フリマアプリや通販も対象外なのだ。私はそれについて国や自治体のサイトを見ながら丁寧に説明していく。
やがて納得したのか「では……成年後見制度ならどうですか」と永田さんが提案してくる。しかし、それも難しいのが現実だ。
話を聞く限り、稔さんは心身ともに至って健康。成年後見制度は事理の弁識を欠く状態、すなわち精神上の障害によって物事の善し悪しが判断できないような人向けの制度だ。心身ともに健康である稔さんには適用が難しい。
結局のところ、対話して向き合い、依存からの脱却を図るほかないのだ。
私は彼が住む自治体の相談機関などを紹介し、その日の相談はそこで終わった。