<前編のあらすじ>
瑛美は実家の近所に住む和代おばちゃんから「父が倒れた」と知らせを受け、病院向かった。父は無事だったが、倒れた原因は熱中症だという。クーラーをつけていなかったことが原因だった。理由を聞く瑛美に父は「節約だ」と答えるのみだった。
瑛美が夫の拓郎に事態を報告したとおろ、「高齢者の貧困が話題になっている」という話題を出され、それが気にかかっていた。まさか父が……。そう思い実家に向かった瑛美が目にしたのは、荒れ果てたゴミ屋敷のような部屋の様子だった。
前編:弁当のゴミが積まれビール缶があちこちに…荒れた実家に娘あ然、几帳面だった父に起きていた信じられない異変
荒れた生活の理由を問いただしても何も語らない父
結局、夜通し実家の掃除をする羽目になった瑛美は一睡もしないまま朝を迎え、タクシーに乗って退院する茂人を迎えに行った。家へ帰ってきてそれなりに片付いた部屋を見ても茂人は何も言わず、昔からの定位置である四角いちゃぶ台の、窓際の座布団に腰を下ろした。
冷蔵庫の中身はほとんど空っぽだったので、夜のうちに作っておいた氷に水道の水を汲み、父の前に置く。
「部屋すごく汚れてた。それに冷蔵庫の中身だって空っぽ。一体どんな生活してるの?」
「……別に今まで通りだよ。お前もあんまり俺の心配なんてするな。俺は元気にしてるから。今回のことはちょっとした事故だよ」
「嘘よ。やっぱり変だって。こんなに暑いのに、節約だからってクーラーつけないなんてあり得ないわ。何かあったんでしょ? 教えてよ」
茂人はこちらをじろりと見てきた。
「何もないと言ってるだろ!」
体は細くなったが、目力は昔のままだった。
「……もう帰りなさい。家族が家で待ってるんだろ。こっちのことはもういいから」
茂人はリモコンを手繰り、テレビの電源をつけた。もう話す気はないと、テレビのブルーライトを受けている父の横顔が告げていた。
瑛美としてはもっと踏み込んで話を聞きたかった。しかし長い間、2人の間に生まれていた分厚い溝がそれを阻んでいた。
「……分かった。それじゃ、帰るけどクーラーはつけてね。ちゃんと水も飲んで」
「ああ、分かったよ」
どうにも納得してないような返事に聞こえたが、瑛美は引き下がるように家を出ていった。