息子の思いに父は
テーブルの上には、煮物と焼き魚、そして味噌汁の湯気が立ちのぼっていた。茜はようやくエプロンを外し、椅子に腰を下ろした。
「はい、お父さんビール。1本だけね」
「おう、ありがとう」
帰宅した夫の俊也が、缶ビールのプルタブを引く音が響く。いただきます、とそれぞれが口にして箸を取る。
何か言いたげにもじもじしていた和毅がようやく口を開いたのは、それからしばらく経ち、味噌汁からのぼっていた湯気が収まったころだった。
「あのさ、父さん、俺今日友達と一緒にオープンキャンパス行ってきたんだけど……大学に行きたい」
「へ?」
無意識に気の抜けた声が漏れた。オープンキャンパスが楽しかったのは分かるが、まさか和毅の口から大学に行きたいなんて台詞が飛び出すとは思わなかった。茜も俊也も箸を持つ手を止めた。
「理工学部へ行って、ロボット工学をやりたい」
オープンキャンパスから帰ってきた和毅の興奮した様子を喜ばしく思ったことは事実だ。だが、彼が自ら意思表示をしてくれて嬉しい反面、厳しい現実が頭をよぎる。和毅の今の成績では、進学は難しいだろう。茜が言葉を選んでいると、横から俊也が遮った。
「そう……でも、和毅……」
「ダメだ」
俊也の声は冷たく、鋭かった。ぱっと顔を上げた和毅が不満げな声を漏らす。
「なんで?」
「大学なんて、金の無駄だろ」
「なんで無駄って決めつけるんだよ」
「高い学費を払って遊ぶだけだろ。だいたいお前、大学に行くのにいくらかかるか知ってるのか。気まぐれで進学したいなんて簡単に言うな」
「気まぐれじゃない……」
和毅の声が震える。