無気力だった息子が興味を持ったこと

玄関ドアが勢いよく開く音がして、茜は思わず皿を洗う手を止めた。

「ただいま!」

和毅だった。珍しく声に張りがある。

「おかえり」

キッチンから声をかけると、彼はせわしなくリビングに駆け込んできた。
頬がうっすら赤い。外の熱気だけではなく、何やら興奮している気配が伝わってくる。

たしか今日は、中学の友人に誘われたとかで、朝から茜でも聞いたことがあるような有名な大学のオープンキャンパスへ出かけていたはずだった。

「聞いてよ。オープンキャンパス、マジですごかった。理工学部、ロボットのプログラムやらせてくれたんだけど、タブレットでコード打ったら、ロボットが指示通りに動くんだ。前に進んだり、曲がったり」

身振り手振りを交えて説明する彼は、いつもと別人のようだった。

「へえ、そんな体験ができるんだ」

「うん、AIが搭載されたやつなんかは、ロボットが自分で周りの環境判断して障害物避けたりしてさ、めっちゃ面白いんだよ。ああいうの作れる人って、ほんとすげえな」

茜は手に持っていた皿を置き、まじまじと和毅を見つめた。彼がこんなに目を輝かせるのは、いつ以来だろう。ゲームに熱中していた小学生の頃でさえ、ここまでではなかっただろう。

和毅がテーブルの上に広げた資料に茜も目を通してみたが、見慣れないカタカナや漢字ばかりで何が書いてあるのかは分からない。

「プログラミングって、今は高校でもやったりするんでしょ?」

「授業でちょっとだけ。でも今日のは全然レベルが違う。実践的っていうか、研究って感じがした」

正直、意外だった。今朝出かける前だって、オープンキャンパスをそれほど楽しみにしているようには見えなかった。

「……楽しそうだね」

そう言うと、彼は高揚していた自分に気づいたのか、少し照れたように笑った。

「まあね。本当は友達の付き添いのつもりだったんだけど。気づいたら俺の方がテンション上がってた」

そう言って笑う息子の様子に、胸にあたたかいものが広がるのを感じながら茜は微笑んだ。