蒸し暑い空気がこもる台所で、茜は鍋が煮立つ音を聞きながら人参を切っていた。もうすぐ18時だというのに、外はまだ明るい。

「はあ、暑い……」

無意識にため息が漏れたそのとき、奥の部屋から息子の和毅が現れた。

現在、高校2年生の17歳。洗いざらしのTシャツに短パン、後頭部には朝から寝癖が残ったまま。茜がパートに出ている間も、ずっと自室でゴロゴロしていたようだ。だらしないことこの上ない。

あくびをしながらキッチンに入って来た和毅は、冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出し、残りが少ないのを見ると、そのまま口をつけてがぶ飲みする。コップに注ぐのも億劫らしい。

「ちょっと和毅。口付けたなら、ちゃんと飲み切ってよ」

「はいはい、分かってるって」

春になれば卒業だというのに、和毅は就職はおろか何に対しても意欲が感じられない。部活には最初から入っておらず、バイトも探そうとしない。友人はそれなりにいるようだが、恋愛をしているような浮ついた気配もない。勉強に対しても当然無気力で、テスト前も大して焦らず、1年のときは進級が危ぶまれたほどだ。
こういうものなのだろうか。

自分が高校生のときはもっと何かに全力で取り組んでいたような気がする。麦茶を飲み、大きなあくびをしている和毅の横顔を眺めながら、茜は小さくため息を吐いた。