今回もダメだったか
風呂から出た隆宏は冷蔵庫から発泡酒を取り出して腰を下ろす。スマホで釣りの動画を見ていると千秋が黙って紙を渡してきた。そこにはこの前の血液検査の結果が書かれてある。
「……今回もダメだったか」
黙ってうなずいた千秋の顔には諦めと疲れが見えていた。
千秋は結婚する前から子供がほしいと望んでいた。もちろん隆宏もタイミングがくればとは思っていたし、結婚から1年もすれば妊娠するのだろうなとぼんやりと考えていた。
しかし3年が経った今も子供はできていない。
千秋が調べてきた不妊治療を始めてから1年半以上が経っているが、成果は出ていなかった。
望んだ成果が得られないまま続く不妊治療は、隆宏たち夫婦を明らかにすり減らしていた。
お金だってかかるし、失敗するたびに世界が終わったような沈痛な表情になる千秋を見ているのも辛い。
「そろそろ体外受精に移ったほうがいいんじゃないかって。先生もそう言ってたし」
不妊治療には4つのやり方があり、タイミング法、人工授精、体外受精……とできるだけ自然妊娠に近い方法から試していくのが一般的で、隆宏たちもそのルートをなぞるように治療を続けてきていた。
「1度、体外受精についてきちんと先生に相談したいから、また有給取ってもらえる?」
まるで呪いだな、と妊娠に執念を燃やす千秋を見ていると思う。傷つくと分かっているのに続ける意味が一体どこにあるというのだろうか。