“金の卵”の退職で標的にされる事態に

翌日、ほとんど面識のないシステム部長から呼び出されました。システム部長は「彼が辞めたことは知っているね?」と確認した後、「前日に彼とトラブったそうじゃないか」と畳みかけてきたのです。

これには驚きました。トラブルというより、私が一方的に理不尽な仕打ちを受けただけです。経緯を説明しましたが、「君のせいで辞めたんじゃないかという話が出ているんだよ」と言われて唖然としました。

システム部長いわく、全社的にシステムの構築を急ぐ中で彼はやっと確保した“金の卵”であり、ああ見えても大学時代から大手物流会社のシステム開発などに関わってきた優秀な人材だったとか。彼のことを話す口調には無念さがにじんでいて、私はいたたまれない気持ちになりました。

逃げるようにして人事部に戻ったのですが、その時、顔を合わせた人事課長が気まずそうに目をそらすのを見て、「この人が言いつけたんだ」と気づきました。

システム部長の話を鵜呑みにするなら、彼の退職は会社として大きな損失です。犯人捜しが始まった中で、契約社員の私が標的にされたのでしょう。

その時痛感したのが、「新入社員と10年選手の私の手取りが変わらないのはおかしい」というのは、私の一方的な思い込みに過ぎなかったということです。自分の方が会社にとって必要な人間だと思っていましたが、上の人たちから見ればむしろ彼の方が辞めてほしくない人材だったのかもしれません。

その証拠に、告げ口人事課長を筆頭に、最近は周囲の人たちも腫れ物に触るように接してきます。あれほど雰囲気の良かった職場が今では針のむしろです。

しかし、新卒レベルの収入でもそれがないと生活していけないので、簡単には辞められません。たかだか毎月27万円程度で、こんな職場環境に甘んじなければいけないなんて……。今の新卒世代を心からうらやましく思います。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。