勝負してみるっているのはどうだ?
「最初からプロ野球選手になってやるぞなんて思ってる子どものほうが少ないだろ。楽しくて続けてたら、プロになれるかもって現実味が出てきてプロを目指すんだって悪くない。それに、高校野球で甲子園に出たいだって立派な目標だし、そういう目に見える成果だけがスポーツの素晴らしさってわけでもない」
「まあ、それはそうかもしれないけどなぁ……」
勇悟が口ごもる。栄子や優からしてみれば、そんな勇悟の様子は新鮮だったから、もうすでに驚きを隠せないでいた。
「ま、とはいえだ。こうやって話してても平行線だしな。勝負してみるっていうのはどうだ? 優、ちゃんと言われた通り練習してるよな?」
「は? 勝負? 練習ってどういうことだよ」
困惑する勇悟をよそに、栄子は合点がいった。グローブとボールはそのために送られてきたもので、きっと手紙には練習方法でも書いてあったのだろう。
だが、優も驚いているらしく目を丸くしていた。ひょっとすると、単純にプレゼントしてもらったものだと思っていたのかもしれない。
「1打席勝負。優がピッチャーで、お前がバッター。もし運動からっきしの勇悟に負けるようだったら、確かに才能はないだろう。でもそうじゃないなら、才能がないとか無理だとか言わず、優が野球を始めるのを認める。どうだ、面白いだろ?」
将吾は勇悟と優を交互に見た。突拍子のない提案に、2人とも揃って呆けた顔をしていたが、先にうなずいたのは優のほうだった。
「勝負するよ。俺、お父さんに負けない」
「だってよ、勇悟。お前はこう言ってる息子から逃げるのか?」
もはや選ぶ余地はないだろう。
栄子は呆気にとられながらも、将吾の用意周到さに感心もしていた。彼はきっとグローブとボールを送ってきた段階から、1打席勝負に持ち込むことを見越していたに違いない。
「……分かったよ。だけど、勝負だって言うなら、俺も手加減はできないからな」
しぶしぶと勇悟がうなずくと、よし、決まりだ、と将吾が手を叩いた。