ネットでさらされる新居
友人たちとのホームパーティーから数日後、さくらのスマホが震えた。
『これって、さくらの家じゃない?』
メッセージを受信したのはこの前の6人が入るグループチャットで、メッセージの下にはInstagramのスクショが添付されていた。
「……え?」
驚きのあまり思わず声が出た。さくらは続けて送られてきたURLをタップする。
表示されたアカウント名は「celeb_na_hitomi」。
投稿をスクロールすると、「自宅を公開しちゃいます」というキャプションとともに、明らかにさくらの家とわかる写真が並んでいた。リビングの全景、大理石のダイニングテーブル、バルコニーからの景色。もちろんさくらが作ったアカウントではない。
混乱しながら過去の投稿を見ていくと、さらに信じられない写真を見つけた。それは、投稿主と思われる女性がどこかのレストランでグラスを片手にポーズを決めている写真。顔こそ写っていないが、ドレスの胸元が妙に強調されたアングルで、もはや下品な意図が見え隠れしている。
おまけにどの投稿にも、まるで憧れを煽るようなキャプションがついていた。
『#タワマン暮らし #優雅な生活 #勝ち組の余裕』
手が震えた。
つまり、このアカウントの所有者は、あたかも自分がタワマンに住んでいるかのように、さくらの家の写真を投稿しているのだ。
さくらは震える指でスマホを操作し、投稿者のアカウントにDMを送った。
『これ、私の家の写真ですよね? 勝手に載せるのはやめてください。削除をお願いします』
すぐに返信が来ることはないだろうと思っていたが、意外にも数分後に通知が鳴った。
『は? ひがみですか? 根拠のないこと言うのやめてください』
画面を見た瞬間、血の気が引いた。
心臓が強く打つ。言葉の意味を考えるよりも先に、自分の家の写真を見知らぬ人間が勝手に投稿しているという状況にただ恐怖が押し寄せてきた。
「大丈夫?」
と史織から電話がかかってきたのは、そのあとすぐのことだった。さくらは史織のアドバイスでとりあえずアカウントを通報したりはしてみたが、気分は晴れなかった。
「どうしよう。知らない人のカメラロールに家の写真があるとか怖すぎる」
「ねえ、さくら。こんなこと言いたくないんだけどさ、あの写真って、この前の写真じゃない? オードブルとか、シャンパンの瓶とか」
「え、じゃあ、あの日来たみんなのうちの誰かってこと?」
言われて投稿を見返してみれば、たしかに『今日は友達が遊びにきたよ~』というキャプションとともに載せられている写真に写っているのは、ホームパーティのときのオードブルやシャンパンと同じものだった。
「確証があるわけじゃないけど、ほら、晴美とかすごい勢いで写真撮ってたし……」
信じたくなかった。
でも、家の中の写真を撮れるのは、あの日のメンバーしかいない。考えれば考えるほどみんなのことが疑わしく思えた。
その夜、夫の清志に相談すると、しばらく黙りこんだあとで彼は冷静に言った。
「プライバシーの侵害だから、法的手段も取れるよ」
「……でも、そこまではしたくない」
さくらはため息をつく。別に訴えたいわけじゃない。もしあの日家に来た誰かのなかに犯人がいるとすれば尚更だ。ただ、彼女たちに疑いの目を向けなければならないことが、何よりも辛かった。
「なら、もう一度みんなを招いてみたら?」
「えっ……?」
「もう1度集まってみたら、何かわかるかもしれないよ。僕に考えがあるんだ」
たしかに夫の提案は効果的かもしれないが、同時に真実を知るのが恐ろしくもあった。さくらはスマホを握りしめたまま、しばらく考えてみたが、答えはすぐに出そうになかった。
●犯人はいったい誰なのか、再び開かれた友人たちとの会合で意外な正体が明らかになる。後編:【「いい会社に就職して、結婚相手まで理想的で…」SNSに無断で自宅を晒した“衝撃”な犯人の正体と、許せなかったこと】で詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。