ストレスばかりの日々
時に常識に欠けていたり、謎のこだわりを持っていたり、個性豊かな作家たちとうまく付き合っていくのが編集者の仕事というものだ。もちろんストレスは溜まる。社会性のなさに暴言を吐き散らしたくなることも少なくない。だがそれでも呑み込んで働くのが、大人というものだった。
デスクでゲラを読み、赤を入れ、途中でデザイナーから上がってきた書影デザイン案を自分の担当作家に送り、電話で軽く感触を確認する。意気投合したふりをしていたら思いのほか話が盛り上がってしまい、喉が渇いたのでコーヒーサーバーで味の薄いドリップコーヒーを淹れてひと息つき、デスクに戻ったあとはゲラの残りを読み終え、また別のゲラを読んでいく。
気が付くと九時を過ぎていて、夫からのLINEが何件も入っていた。内容はいつも通り、今日も遅いのとか、ご飯どうしたらいいとか、そんなとこだろう。もはや見なくても分かるけれど、返信を送る。
『ごめん! 打ち合わせが長引いちゃって。駅前でてきとうに買って帰るよ!』
飯くらい自分でなんとかしろよ大人だろ――という頭に浮かぶ言葉とは切り離されて指が動く。すぐに既読がついて、OK! と猫がサムズアップする寒気のするスタンプが送られてくる。真耶子は心のなかに留めた舌打ちをして、読みかけのゲラとPCをバッグに入れ、コートを着込んで席を立つ。まだ何人か残っていたから、みんなも早く帰りなよと声をかけて退勤する。
電車に揺られながら、Xを確認すると昼間のユーチューバーがまだ燃えていた。どうやら問題の炎上動画を削除し、謝罪と釈明の動画をアップしたが、その内容がまずかったらしく、露骨な再生数稼ぎだと燃えていた。
『遺伝子レベルで品性がない』
『まず生まれてきたことを謝罪してwww』
真耶子はすばやく打ち込んで、謝罪動画やそのURLを添付したポストにリプライを飛ばす。今、このユーチューバーはどんな気持ちなんだろうか。想像してみると胸がすっとした。