この世は燃えるゴミだらけ。どいつもこいつも危機管理が低すぎる。だから燃やされて当然。炎上は起こるべくして起こるのだ。
ひとりきりのランチタイム。オフィスの近くのカフェのカウンター席でコブサラダを食べていた真耶子は、Xのタイムラインを流し見しながらほくそ笑む。とあるグループユーチューバーがフィリピンで発生した記録的豪雨の被害を「これが本当のバナナボート」と笑いながら話したらしく燃えていた。
真耶子の親指はすばやく動き、アカウントを切り替える。表示されたアカウント名は「M」の1文字。いわゆる“裏垢”というやつだった。
ブラウザで炎上している動画を検索する。動画はまだ削除されておらず、炎上への対応の遅さとコンプライアンスへの意識の甘さが感じられる。有罪だ。真耶子は該当の投稿をスクショを添付した投稿を「M」の裏垢で速やかに作っていく。
『日本の恥さらし こういう害虫どもは世にのさばっちゃダメだろ』
投稿にはいつも通りすぐにいいねがつき、リポストされる。リプライがぶら下がる。増えていく数字や反応を満足そうに眺めながら、真耶子はコブサラダを口に運ぶ。
オフィスに戻った真耶子を待ち構えていたように、後輩が声をかけてきた。話を聞いてみれば、担当作家と連絡がつかないとのことだった。
「うーん、住所は分かってる? まだ入稿には余裕あるから、もし今日中返信がないようだったら明日朝イチで訪問してみて。佐竹先生、そういうの嫌がる人じゃないでしょ。でも、もちろんメールにはその旨書いておくこと。訪問してみて無理だったら、そのときまた相談して」
曇っていた後輩はありがとうございますと深くお辞儀をして戻っていく。彼の担当作家が年明けから煮詰まっていたことはなんとなく知っていた。とはいえ、初めてのことではないから、きっと年度が替わるころにはけろっと復活しているに違いない。