14年あっていない母に会う……?
嫌な夢を見たと、夕食後の晩酌を2人でしているときに話すと、和仁は申し訳なさそうに刈り上げている後頭部をかいた。
「そしたら、俺、なんか余計なことしちゃったかな。ごめん」
「和仁のせいじゃないよ。ただ、もうとっくの昔に忘れたと思ってたことだったのに、人間の記憶ってすごいよねって話。だって高校卒業以来、もう14年も会ってないんだよ? それなのに覚えてるなんて、親って業が深いよねぇ」
和仁はコップに注いだ缶チューハイを飲んでいる。めぐみはパーティー開けでテーブルの上に出した柿の種をつまんだ。いつもよりほんの少しだけ饒舌な気がするのは、ただ単にアルコールが回っているからだとめぐみは思った。
「においの記憶って、深く残るって何かで聞いたことあるよ。小説のタイトルで、きっと子供のころの嫌なにおいを思い出しちゃったんだろうね」
「じゃあ、ずっとこうなのかなぁ。レモンとかオレンジとか、美味しいのにね」
「なら、会いに行ってみれば?」
冗談めかして言ってみただけだったが、和仁の思わぬ提案にめぐみは思わず固まった。
「いやいや無理だよ。14年会ってないって言ったじゃん。今更どんな顔で会うのさ。だいたい、もうどこに住んでるのかも分かんないよ?」
「そうかもしれないけど、結婚もしたわけだしさ。事後報告になっちゃうけど、もしめぐみが行くなら、俺もついていくよ。挨拶も何もできてないの、ちょっと気になってはいたんだよね」
「そんなこと考えてたの?」
めぐみは目を丸くした。
めぐみと母が不仲であることは和仁も知っているが、深く立ち入ることはせずに静観する態度を貫いていた。だから、めぐみの母に挨拶もせずに結婚したことを気にしていたなんて知らなかった。
和仁は、驚くめぐみに「そりゃあそうだよ」と笑った。
「ま、無理強いはしないけどさ。節目だし、考えてみてもいいんじゃない? 俺もできる限りの協力はするし」
心強かった。だがすぐに首を縦に振ることはできず、めぐみは返事を先送るようにくちびるを固く結んだ。