できる限りのことはやってみる

「そうかぁ、まあでもここまでよくやったんじゃないか?」

夕食のあと、コーヒーを飲みながら今日店長に言われたことを話すと、夫の竜次は眉を寄せて呟いた。

「そうかもしれないけどさ……って何笑ってるの」

「いや、そうは言ってもやめるつもりはないんだろうなと思ってさ。変わらないよな、早苗は昔から。これと決めたら、死にもの狂いでやり抜こうとする」

「それじゃあすごい頑固な人みたいじゃない」

早苗は冗談っぽく竜次のことをにらみつける。竜次は楽しそうに笑う。

「でも翔平のためなんだろう? なら、とことんやってみたらいい。俺にできることがあれば協力するからさ」

早苗は竜次の視線をたどる。電話台のとなりのキャビネットには、7歳のときに交通事故で亡くなった息子・翔平の写真が飾ってある。

「そうね」

早苗はうなずいた。

「できる限りのことはやってみる」

あの子ども食堂は、ちょうど翔平と同い年くらいの子どもがお腹を空かせていたことがきっかけで始まった。早苗自身、子ども食堂で触れる子どもたちの笑顔に救われてきた。その恩返しは、まだできていなかった。

●支援者を募るためSNSでの宣伝や街頭へのビラ配りに奔走する早苗だったが、検討むなしく、「子ども食堂閉店」が一歩、また一歩と近づいてくる。そんなとき、思わぬ救世主が現れる。後編:【「なんとか続けていけないか」資金難の子ども食堂が迎えた最後の日にやってきたまさかの救世主たち】にて詳細をお届けします。