吉田早苗はため息をついた。時計は13時を指している。かつてなら昼食を買いに来る人たちでにぎわっていた弁当屋の活気は、今ではもう見る影もない。

それどころか、商店街全体が閑散としている。お昼時のピークに当てて作られた弁当が減る様子はない。このままだと、今日も大量の廃棄が出るだろう。

「吉田さん、休憩入っちゃって」

キッチンの片づけをしていた店長に声をかけられ、早苗はエプロンを外す。昨年50代に入った早苗にとって、立ち仕事は決して楽な仕事ではなく、最近は腰にもしんどさを感じるようになったが、やりがいのある仕事だと思っている。

お店の裏手にあるベンチに座り、残ってしまうからと自分で購入したのり弁当を食べる。味は間違いない。とびきり美味しいわけではないが、オーソドックスで安心できる味だ。食材の値段は高くなったが、六七〇円の値段だってそのままだ。

それなのに閑古鳥が鳴いているのには訳がある。

再開発により駅前にできた大型のショッピングモール。買い物客も、昼休みのサラリーマンも、そこに奪われてしまった。

しかたのないことだとは思う。時代の流れというやつだ。すでに3軒となりのパン屋は閉店し、よく分からない質屋になった。向かいの定食屋が閉店したのはつい先月のことだ。

だが弁当屋を潰すわけにはいかない。早苗には、いちパートながら弁当屋を続けていく責任がある。

休憩もそこそこに切り上げ、早苗は店内の小さなイートインスペースの掃除を始めた。普段は使っていないスペースだが、週に2回、火曜と木曜だけ、この場所は子ども食堂になるのだ。