ご苦労なことね

「……あら?」

義母の手が止まり、フォークの先に何か固いものが当たったような音がして、真名美は思わず身を乗り出した。

「それ、フェーヴですね!」

義母が驚いたようにガレットデロワの中をのぞき込むと、小さな陶器の人形が姿を見せた。

まさか義母が引き当てるとは思わなかった。

次の瞬間、義父が声を上げた。

「おお、真紀が王様か! こりゃ今年は縁起がいいな」 

「……そんな大げさな」

義母は少し恥ずかしそうにしながらも、まんざらでもない様子でフェーヴを手に取った。

その表情には、少しだけ柔らかな笑みが浮かんでいた。

真名美は急いで用意していた紙の王冠を取り出し、義母の前に差し出した。

「王様になった方に、これをお渡しするのが伝統なんです」

義母は目を丸くして、それから小さく噴き出した。

「まあ、そんな子どもみたいなこと」

「せっかくですから、被ってみませんか?」

真名美は笑顔を向けたが、義母は顔を少し赤くして首を振った。

「そんなの、恥ずかしくて被れるわけないでしょう」

そう言いながらも、差し出された王冠をしっかりと手に取る義母。

「これ、わざわざ作ったの? ご苦労なことね」 

憎まれ口を叩きながらも、義母が小さなフェーヴと王冠をそっと手提げ袋の中にしまったのを見て、真名美は思わず笑みを漏らした。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません