お年玉が入っているはずの娘の口座には……

無事に成人式も終わったころ、佳菜子は1人で銀行の窓口を訪れていた。

手にしているのは、少々年季の入った通帳。美菜が生まれたときから少しずつ、お年玉などを少しずつ貯めてきた専用の口座だ。

今までは親の自分たちが管理してきたが、彼女が独り立ちするタイミングで、本人に渡してあげるのが一番良いだろう。新生活を始めるにあたって、少しでも役に立てばと考えてのことだった。美菜に渡す前に、いくらか追加しておこうか。

しかし、久しぶりに記帳した通帳を開いた瞬間、佳菜子は自分の目を疑った。

「え……残高が、ない?」

毎年確かに振り込んできたはずのお金が、百万円近くあったはずの預金が、ごくわずかしか残っていない。

「なにこれ、どういうこと…」

頭の中では、いくつもの疑問が渦を巻いた。けれど、すぐには答えが出せそうにない。佳菜子はもつれる足で窓口へ向かった。

「あの、すみません……この履歴について教えてもらえますか?」

通帳を確認した担当の若い女性が言った「こちらはATMでの引き出しですね」という淡々とした説明は、佳菜子に現実を突きつける。

美菜の通帳は、開設してからずっと夫婦で管理してきた。こんなことができるのは、佳菜子を除けば1人しかいない。

胸の中に重たい塊がのしかかる。佳菜子は通帳をしまい込んで銀行を後にした。

●貯めてきた美菜のお年玉の行方を知るのは、そう夫の勇司である。問い詰める佳菜子に勇司が応えたのは、許されないお金の使い道だった。後編【「投資する方がいいと思ったんだよ!」長年貯めていたはずの娘のお年玉を使い込んだギャンブル狂夫のあきれた言い訳】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。