見つかった贈与契約書で事態が一転
正さんの死から4カ月後、一通の契約書が見つかりそこから事態が一転する。
忠太さんが正さんとの間で結んだ贈与契約書の存在を思い出し、由奈さんに見せてきたのだ。
「これ! 見てくれ、俺は親父の金を使い込んだりしていない」
忠太さんの言うとおり、確認してみると契約書の記載内容とお金の支出の記録は一致する。ここで忠太さんの疑いがすべて晴れたかのように思えたがそうはいかなかった。
「本当なの? これ、今作ったとかじゃないの?」
由奈さんが言う。
そう考えるのも無理はない。これまで出てこなかった契約書が突然出てきたら誰でもそう思うだろう。だが、幸いにもその贈与契約書を作ったのは私であり、作成に携わった者として私の記名もある。
忠太さんが契約書の存在を明るみに出してから3日後、私は事務所で由奈さん忠太さんと会合した。
そこですべてを話す。遺言書の作成に先立って贈与契約書を作成していたこと。忠太さんと面識はないが、こういった事態に備えての対応を正さんに伝えていたことをお話しした。
結果的にすべてが解決し、由奈さんと忠太さんは和解。正さんの遺言書通りに遺産分配を完了したと、後々由奈さんから聞いている。