頑固な父親も息子を見守ることにしぶしぶ納得
そこまで話が進んだところで父親が質問をしてきました。
「仮に息子が就職できたとして、収入はどのくらいになるのでしょうか?」
「ケースバイケースなので何とも言えませんが、就労は障害者雇用を検討することになるので、最初は月数万円を想定してみます。働くことに自信が持てるようになれば、最終的には月に手取りで10万円~12万円くらいを目指すことになるでしょう」
「最初は月数万円からって……。そんな金額ではとても息子は生活できませんよね? 正社員を目指さなければいけないのではないでしょうか」
「お父さまのおっしゃることもごもっともだと思います。ですが、隆さんの今までの状況を鑑みると、正社員で働くようになるのはかなりハードルが高いかもしれません。せっかく就労しても、続かなければまたひきこもりのような生活に戻ってしまいます。それならば、『障害基礎年金と障害者雇用による収入でなんとか自活できるレベルを目指してみる』といった方がまだ現実的だと思われます」
筆者はさらに続けました。
「隆さんには生まれつき発達障害があり、日常生活や就労に困難を抱えています。それは隆さんが悪いわけではありません。もちろんご両親のせいでもありません。生まれつきなのでどうすることもできないのです。厳しい言い方になりますが、発達障害を受け入れて生きていくしかありません。幸いにもご家族で話し合った結果、隆さんも行動を起こす決心が固まりつつあるようです。否定することなく、まずは事の成り行きを見守っていくといったことも大事ではないでしょうか」
この話に、父親はやむを得ないといった様子で黙ってうなずきました。
家族会議の後、隆さんと母親はさっそく就労移行支援の事業所を調べることにしました。いくつかのサイトを見比べ、よさそうな事業所を見つけたので、相談の予約を入れた後、隆さんは母親と一緒に相談に行きました。就労移行支援先では、どの支援者も隆さんの発達障害に理解を示し優しく接してくれました。
「ここならなんとか通えそう」。隆さんはそう思ったそうです。
現在も隆さんは就労移行支援に通っており、就労に向けて一歩一歩進んでいます。ひきこもり状態から脱したことで、ひとまず父親の苦言も減り、父子で言い争うこともほとんどなくなったそうです。そのため、当面は隆さんと両親は同居を続けることになりました。
ひとまず深刻な事態は免れたようでよかった。
母親から隆さんの近況を聞いた筆者は、ほっと胸をなで下ろしました。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。