そこへ、3人目の男性が登場
煮え立つキムチ鍋に箸が突き刺さる。おたまも菜箸もあるのに、鮮やかな赤色の鍋をかき混ぜているのは、遠藤のじか箸だった。
〈じか箸いったー!〉
〈キモすぎ……もう鍋食べられないじゃん〉
絵里奈と智子のメッセージはテーブル下で相変わらず続いている。
「あ、皆さんのおかわりも取り分けますよ。ほら、今ってこういうの、男女関係なくやらなきゃいけない時代でしょ」
なぜか得意げな遠藤の申し出を、真美たちは丁寧に断る。絵里奈と智子が鍋に手を伸ばそうとしないので、真美は仕方なくおたまと菜箸を使って小皿に取り分けたが、食欲は湧かない。もちろんそれは遠藤がじか箸で混ぜた鍋だからということもあるが、同じくらいいつの間にか目の前に移動してきているせいで目に入る葛西が気になった。
「それで、真美ちゃんは何やってんの? 休みの日とか」
小皿からかき込んだ野菜や肉を租借しながら、葛西が真美に話しかける。声に混ざって、くっちゃくっちゃという不愉快な音が聞こえてくる。
どうやら葛西はクチャラーだった。
「まあ、映画見たりとか……」
「へえ、映画かぁ。俺も好きだよ。ほら、なんだっけ、あの、あれだよ、あれ」
「新海誠な。映画って、お前、アニメしか見ないだろ」
葛西のさびついた記憶に、遠藤が助け船を出す。
「そうそれそれ!」
手をたたいた葛西の口から、小さな米粒が飛び出す。米粒は見事に鍋へ飛び込んだが、メッセージを見るに絵里奈たちは気づかなかったらしく、触らぬ神にたたりなしと、真美も黙っておくことにする。
地獄だった。
この逃げ場のない地獄から逃れるには、もはやアルコールを摂取するしか方法がなく、真美はグラスに残っていたレモンサワーを一気に飲み干し、タブレットでおかわりを注文した。しかしくちゃくちゃ音といっしょに聞こえてくる「真美ちゃんいけるねぇ」という声が追いすがり、血中をめぐろうとしているアルコールをきれいに取り除いていく。
そのときだった。遠藤の背後でふすまが開き、スーツ姿の男が1人入ってきた。
「お、来た来た!」
「檜山遅えよ、何してたんだよ」
遠藤と葛西が反応し、空いている真美の対角線上に到着した彼を座らせる。
檜山と呼ばれていた彼は肌が白く、目鼻立ちがはっきりしているため、まるでハーフのように見える。来ているスーツは少し派手だが、本人のルックスのせいか、全く下品には感じない。真美の好みど真ん中だ。
〈我慢したかいあったー!〉
〈捨てる神あればなんとやらだ〉
グループチャットが机の下で盛り上がる。真美もたまらず、〈イケメンきた!〉と打ち込んだ。
●一気に女性たちのテンションを上げた遅れてきた男性、しかしとんでもない正体があきらかになる――。後編【「俺、1000円でいいですよね?」最悪な合コンに救世主が…遅れてやってきたハイスぺ30代男性の「ヤバい本性」とは?】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。