教室の扉の前に立ちながら、胸を押さえて深く息を吸い込んだ。大学を卒業し新任教師として赴任してはや半年、「先生」として扱われることに明日香はだいぶ慣れてきた。

夢だった教師としての道を着実に歩めている実感のある毎日だった。子供たちの相手は一筋縄ではいかないことも多かったし、新任として至らないことばかりだと思う。だが、彼らの笑顔は何にも代えがたい喜びだった。だから明日香は、子供たちの笑顔のためならばどんな努力も手間も惜しまない。教師になろうと決めたとき、そう誓った。

その思いの1つの結果が今日のハロウィーンパーティーだった。少しでも子供たちに学校生活を楽しんでもらいたいと思い、総合学習の時間を利用してイベントの開催を企画した。学年主任や教頭に許可を取り、異文化理解の名目でイベントを取り付けた。カリキュラム外の活動になるため、準備はすべて勤務時間外に行った。大変でなかったと言えばうそになるが、子供たちの喜ぶ顔を見るために、今日まで入念に準備をしてきた。

扉の向こうには、おのおのが用意してきた仮装衣装に着替えた子供たちが待っている。かく言う明日香も黒いマントを羽織り、頭には大きなとんがり帽子を乗せている。

コスプレなんて大学のときでもしなかったので、かなり恥ずかしい気持ちはあったが、こういうことは楽しんだ者勝ちだろう。明日香は自分に言い聞かせると、勢いよく教室の扉を開けた。