見覚えのないネクタイピン
大輔は程よく酔いの回ったからだを引きずって、寝室へと向かった。買ったときは瑠美が喜んでくれたキングサイズのベッドも、今はやたらと広く感じられる。ネクタイを緩めジャケットを脱ぐ。その拍子にジャケットのラペルにつけていた社章が外れて落ちた。転がった社章はベッドの下へと滑り込む。大輔は小さく舌打ちをして、ベッドの下へ手を伸ばす。
しかし手のひらは滑らかな毛並みのカーペットに触れるだけで社章の感触はない。だいぶ奥へ入ってしまったのかと、スマホのライトでベッドの下を照らす。社章と並んで光るものが落ちているのが見えた。大輔は手を伸ばしてすべてをつかむ。引き戻した手を見てみれば、見覚えのないネクタイピンが手のひらの上にあった。
「奥さん、浮気でもしてるんじゃないですか?」
山村の冗談めかした言葉が脳裏に響く。
いいや、そんなわけはないと、大輔は首を横に振る。瑠美には何一つ不満のない生活を送らせている自信があった。これ以上、彼女が何を望むというのだろうか。
確信があった。そのはずなのに分からなくなった。
大輔はベッドサイドに座り込んだまま、しばらく動くことができずにいた。
●瑠美は自宅で浮気をしているのだろうか……? 苦悩する大輔に、驚くべき事実が待っていた。後編【港区タワマン夫婦の“すれ違い”…浮気を問い詰める夫に年下妻が放った「予想だにしない言葉」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。