<前編のあらすじ>
港区のタワーマンション上層階に住む大輔(48歳)は、3年前に結婚した一回り年の離れた妻の瑠美(36歳)と2人で幸せに暮らしていた。
専業主婦の瑠美には十分なお金を渡し、不自由ない生活をさせてきたと思っている。しかしこの半年ほど、瑠美との会話は少なくなる一方で、最近子どもが生まれた妹の家に育児を手伝いに行くと言い、外泊をすることも多くなった。
部下に「奥さん、浮気でもしてるんじゃないですか?」と言われ、その場は流した大輔だったが、寝室のベッドの下に見覚えのないネクタイピンが落ちているのを発見し、妻を疑うようになる。
●前編:「奥さん、浮気でもしてるんじゃないですか?」港区タワマン暮らしのハイスぺ夫を悩ます「疑惑の落とし物」
言い出せない妻への疑念
疑惑のネクタイピンを拾った翌日の昼前に、瑠美は家に帰ってきた。ネクタイピンは通勤かばんのなかに隠してある。
「おはよ。朝には帰ろうと思ってたんだけど、奈美の夜勤がちょっと長引いて遅くなっちゃった。ごめんね」
「ああ、おはよう。奈美ちゃんたちは元気にしてた?」
「うん、いつも通り。海香ちゃんも離乳食たくさん食べてたし、たくさん遊んだよ」
大輔としては探りを入れてみたつもりだったが、瑠美の反応からその真偽を読み取ることは難しかった。人生で最愛の人だと思っていた瑠美のことが何一つ分からなくなっていた。
「朝ごはん食べた? もしまだなら、なんか軽く作るよ。……って、顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫。昨日、金曜だからってちょっと飲みすぎたのかも。もう少し寝るよ」
大輔は寝室へ向かったが、瑠美はそんな大輔を呼び止めた。
「あのさ、火曜日にまた奈美が来てほしいっていうんだけど、行ってきていい? 夜には帰ってこられると思う」
「いいよ。行っておいで」
本当は胸のうちで渦巻く疑念を全て吐き出してしまいたかった。だが、口を突いて出るのは真逆の言葉だった。