娘のケガを妻のせいにするどこまでも身勝手な夫

「はい、終わりましたよ。よく頑張りましたね」

やけどの処置が終わり、看護師が声をかけるのが聞こえた。

「……ありがとうございます」

美里は、ようやく泣きやんだ穂香の鼻水を拭いてやりながら、担当してくれた看護師から詳しい話を聞いた。穂香のやけどは、幸い大事には至らなかったものの、しばらくおでこに跡が残るだろうということだった。おそらく目立つ傷跡にはならないだろうが、どうしても気になるようならレーザーで消す方法もあると教えてくれた。

そんな話を聞いているうちに、泣きつかれた穂香は美里の腕の中で眠ってしまったようだ。美里は穂香を起こさないようにしながら、お世話になった看護師にお礼を言って救護室を出ようとした。

するとちょうど同じタイミングで、淳也が救護室に入ってきた。部屋のなかに、ひどいアルコールの匂いが広がった。タバコの匂いも混ざっているため、おそらく今まで喫煙所にでもいたのだろう。

「は? 穂香、頭にケガしてんじゃん。なんで?」

「穂香が人とぶつかって、熱い料理が頭にかかっちゃったの」

必要以上に声を張り上げる淳也に対して、美里はなるべくトーンを落として事の経緯を説明した。眠っている穂香を起こしたくなかったし、何より救護室で騒ぐのは迷惑だからだ。美里はあえてささやくように話したのだが、酔いが回っている淳也には全く通じなかったらしい。

「はぁ? 穂香のこと、ちゃんと見ておけよ! 女の子なのに、顔に傷が残ったらどうするんだ? まったく母親のくせに何やってんだよ!」

勢いに任せて怒鳴り散らす淳也の言葉に、美里は思わず涙が出そうになった。穂香にケガをさせてしまったことについては、淳也に言われるまでもなく美里自身が1番責任を感じていることだ。自分が目を離した隙に穂香がやけどを負ったのだから、美里が自分を責めるのも無理はない。

だが、穂香が席を離れて駆け出したとき、淳也も同じテーブルにいたのだ。あのとき淳也が、ほんの少しでも穂香のことを気にかけてくれていたら、今回のような事故は防げたかもしれない。それなのに自分のことを棚に上げて、母親である美里だけを責めるなんて、あまりにも理不尽だ。

「あなたこそ……」

ついに堪忍袋の緒が切れた美里が淳也をにらみながら口を開いたとき、2人の間に割って入った者がいた。