父親として

この日を境に淳也は、少しずつ子育てに協力的になっていった。

どうやら第三者に説教されたことが相当恥ずかしかったらしい。平日は仕事に行かないといけないので、どうしても穂香と接する時間は少なくなってしまうが、淳也なりにできることを精いっぱいこなしているようだ。

中でも美里が1番驚いた変化は、淳也がタバコをやめたことだ。最近さらに言葉がハッキリしてきた穂香から「パパくさい」と言われたことがきっかけで、禁煙を決意したのだった。正直、いつまで続くか分からないが、娘のために禁煙に挑戦しようという気持ちだけは、美里も評価している。

それから、外食のときには、淳也と美里は交代でご飯を食べるようになった。そのおかげで美里の負担は、ずいぶん軽減された。淳也の育児は、まだまだ危なっかしい面もあるが、父親との触れ合いが増えて穂香もうれしそうにしている。

あのとき見ず知らずの私のために淳也をしかってくれた看護師さんには感謝してもしきれない。もちろん淳也にも感謝はしないといけないのかもしれないが、今はまだ様子見だ。これからも穂香の父親として、淳也には頑張ってもらわなければいけない。

「よーし、穂香。おいしいか?」

四苦八苦しながら娘の口元を拭いている淳也を見守りながら、美里はまだ温かいごはんを口に運んだ。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。