<前編のあらすじ>

茉莉(33歳)は夫・淳也(35歳)の「今日は外食にしようよ」という提案から、2歳になったばかりの娘・穂香を連れて出掛ける。夫の行きたかった店、なんとそこはビアガーデンだった。

夫婦そろってお酒が大好きで、妊娠する前は2人でよく飲みに出掛けていた。だが茉莉は、2歳の娘の面倒を見ながらお酒が飲めるわけもなく、ご飯も食べられず穂香の世話に終われていた。しかし淳也は、「今日は飲むぞぉ」と、テンションを上げ、頰を赤らめてビアガーデンを1人で楽しんでいる。「茉莉は飲まないの?」というのんきな言葉に腹が立ったが、出先なので我慢をした。

育児に非協力的な夫、そんななか、目を離したすきに穂香がウエーターにぶつかってしまい、熱々の焼きそばを頭からかぶっててしまった……!

●前編:「家族で出かけても私だけワンオペ…」ビアガーデンで2歳の娘を前に泥酔する“自分ファースト”なモラ夫の「仰天行動」

火が付いたように泣き叫ぶ娘

湯気の立つの焼きそばを慌てて穂香の頭から払いのけ、大泣きする穂香を抱き上げて、美里は叫んだ。

「淳也! どうしよう穂香が! 淳也!」

穂香は、幼い娘を抱きしめながら必死で夫を呼んだ。だが、自分たちのテーブルを振り返っても、そこに夫・淳也の姿はない。美里は仕方なく淳也のLINEに連絡を入れ、穂香をデパートに併設された救護室に運び込んだ。

「あのっ! すみません! 娘が頭から熱々の料理をかぶってしまって……」

「はい、大丈夫ですよ。ちょっと患部を見せてもらいますね」

救護室に常駐していた男性看護師は、大慌てで飛び込んできた美里に優しく声をかけてくれた。号泣している穂香に対しても、慣れた様子でテキパキと処置を施していく。美里は、その様子を見守りながら、無意識のうちに淳也と看護師を比較している自分に気が付いた。

今どき男性でも子供の扱いがうまい人は大勢いるし、父親だって育児参加して当然だ。だから男女のステレオタイプについてどうこう言うつもりもない。しかしそれでも同じ男性でここまで違うのかと思わざるを得なかった。

もちろん、プロだからと言ってしまえばそれまでの話だが、そのとき穂香は、その看護師の言葉や態度の端々から自分たち親子への並々ならぬ配慮を感じていた。

(せめてこの人の100分の1でもいいから、淳也に思いやりがあれば……)

美里は淳也に自分たちが救護室にいる旨のメッセージを送りながら、そう願わずにはいられなかった。