現実を受け入れて見えてきた不動産投資の新しいカタチ

美穂は、肩の荷が下りたような気持ちで帰宅した。早速、夫の達也(38歳)にも、兄が不動産の売却を前向きに考えてくれるようになったことを話した。物件を売却すると、このビルで暮らし続けるわけにもいかなくなるので、新しい住まいのことも考えなければならなくなる。もちろん、兄は「考えてみる」と言ったばかりだから、すぐに売却に向けた話が進むとも思えなかった。ただ、次のステップに向けた準備が必要になったということだ。
美穂は、「おじいちゃんから財産三分法という考え方を聞いて、財産は『不動産・現金・株式』の3つに分けて持つことが大事と教えられた。不動産は昔から有力な財産だといわれていたじゃない。なぜ、うちはうまくいかなかったのだろう?」という疑問を口にした。

達也は、「不動産は、それを管理するという仕事はやはり重要なんじゃないかな。美穂が引き継いだ時に、過去の書類がないと大騒ぎしたり、積立金の積み立て不足が大きかったり、かなり過去の管理に問題があると言っていたでしょ。どんな財産でも手入れして育てる手間を惜しんじゃいけないんだよ」と言った。美穂は、達也を見直すように感じた。そして、達也は「不動産の安定収益が得たいのなら、J-REITに投資するという手段があるよ。会社の確定拠出年金の勉強会で聞いたことの受け売りなんだけど、都内の一等地にある有名なビルとかをいくつも持って、その賃貸収入を分配してくれるのがREITの良さなんだって。もちろん、管理は一流の不動産会社がやってくれるから安心だ。利回りが年5%を超えるものもあるらしい。NISAでも買えるって」と言った。

美穂は、NISAで始めた投資には、様々な可能性がありそうだと思った。そして、練馬の実家を後にするときに兄がぽつんと言った「翼のこと、どうすりゃいんだ」というつぶやきのことを思い出していた。「それは、ま、自業自得ということかな」と思うと、兄に対して募っていたうっぷんが少し晴れたように感じた。そして、「兄さんは、いろんなことを逃げ回ってばかりだから、いろんな問題に追いかけられる。翼君のことは、今真剣に向き合わないと、将来もっと大きな問題になりそう。いい機会だから兄さんのお尻を蹴っ飛ばしてでも翼君と話し合うように言ってみよう。これから高校に入り直しても、翼君はいくらでもやり直せるのだから」と美穂は思っていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。