自分たちの人生を大事にする決意

沙織は、意を決して話し出した。「わたし、赤ちゃんができたみたいなの。今のままの生活を続けることはできないし、まして、5万円の積立投資を続けることも難しいと思う。期待に応えられなくて、申し訳ないのだけど……。本当にどうしたらいいのかわからなくて……」と、うつむいたままに話を続けていた沙織は、小山に抱きしめられて驚いて顔を上げた。小山は「うれしいよ。沙織は、どうしたい? 僕たち子どもができるんだね。一緒に頑張ろうよ。ダメかな? 結婚して家族になろうよ。どう? 僕、頑張るよ」と言葉をかけ続けた。沙織は、小山に抱きしめられたまま、また、涙が止まらなくなった。ただ、今度の涙は、安堵と喜びの涙だった。

2人は話し合って、毎月の積立投資は小山の5万円だけにして、沙織は出産に向けた準備をすることにした。沙織の登録している派遣会社には、産休や育休の制度もあるため、その制度を活用して、できるだけ無理のない出産を迎えることにした。そして、婚姻届を出し、家族を迎える準備を始めることにした。その後、小山は、沙織に言った。「僕は何か焦っていた。自分には何も確かなものがないという思いが強かったので、せめて将来の資産はしっかりしたいと思って必死だった。何か確かなものがないと、自信を持ってプロポーズもできないと思っていた。けど、この子のおかげで決心ができたよ。将来のために、今を犠牲にし過ぎるのは良くないよね。自分たちの人生をしっかり生きないとダメだ。その上で、可能な範囲で将来の資産を作っていけばいい。将来の資産づくりを第一に考えていた僕は間違っていた。一歩一歩進んでいこう。頼りないかもしれないけど、一緒に進んでくれるかい?」。沙織は、小山が沙織のおなかにおいた手に自分の手を重ねてうなずいた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。