積立投資を続ける息苦しさの正体は?

沙織は、小山に押し切られるような感じで積立投資に同意した。もちろん、人の将来のために一緒に資産を作るという考えは悪くないと思ったし、小山から提案を受けたことはうれしくもあった。ただ、沙織の収入から、毎月5万円を捻出することは相当大変なことだということがわかっていた。そして、2人で一緒に暮らすようになって、家賃や光熱費の負担が少なくなったために、毎月の生活は回るメドは立ったが、沙織は、職場の同僚から誘われる喫茶や飲み会を断らざるを得なかった。毎月、いくらかの資金が余るものの、精神的には常に追い込まれているような毎日だった。化粧品を安いシリーズに変え、美容院も安い店に変えた。最初の約束通りに、毎月ちょっとリッチなレストランを予約してディナーを食べても、箱根の温泉に泊まりに行っても、全然楽しくはなかった。結局、レストランでのディナーは止めて、翌年に計画していた海外旅行も見直すことにした。

沙織は、毎日、職場を往復するだけの生活を判で押したように続けざるを得ないことに、息苦しさを感じるようになっていたのだろう。秋のシルバーウイークに行った箱根の温泉宿で、ささいなことから口論になって、その夜は一言も口を利かずに眠った。それから、お互いの無駄を指摘し合うようなことが続くようになった。「あまりケチなことを言わないで」という小山に対し、「節約して投資しようと言い出したのはあなたよ」と沙織が言い返すパターンが多かった。11月には一緒に暮らしていても、会話らしい会話がなくなっていた。そして、迎えたクリスマスの夜に、沙織の感情が爆発したのだった。

小山は、沙織が泣きやむのを辛抱強く待った。そして、沙織が落ち着くのを待って、何が問題なのかを聞いた。沙織は、積立投資を開始して以来の毎日が嫌でたまらないと答えた。いつも、息をひそめるようにしてお金を使わないで暮らすことを考えるばかりで、友達とお茶をすることもできず、好きな映画も見に行けず、ショッピングの楽しみもなくなった。こんな生活は息が詰まる。もう耐えられないと沙織は訴えた。「それに……」と言ったきり、沙織は口ごもった。小山は、沙織の言葉を待った。