父の意向はどうなる?

そもそもだがこの遺産分割は父・秀夫さんの意向に沿って行われたものだ。生前に「竜也に相続させるな」と言っていた。これはいわば相続人の廃除に当たるものと考えていいだろう。

廃除とは、特定の相続人から相続権を奪う制度だ。廃除されたものは例え実子であったとしても相続人でなくなり財産を相続することはできなくなる。

このように、廃除は非常に強力なものだ。時に相続人の人生を大きく左右することもある。それゆえ、廃除をするには厳格な法的手続きが求められている。それを簡潔に説明すると、家庭裁判所にて所定の書類を提出し審判を受ける必要があり、その後さらに市区町村へその旨届け出なければならないといった具合だ。

手続き自体が難解で時間を要することももちろんだが、そもそもこの廃除自体そう簡単には認められるものではない。廃除には亡くなった方に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行が必要とされている。ここでいう虐待や重大な侮辱、著しい非行だと認められるには相当のものが必要であり一般人の感覚からすれば「それって虐待や重大な侮辱、著しい非行に該当するんじゃないの!?」といったものも、該当しないとして廃除が認められないことも多々ある。

それも当然だ。なぜなら財産の相続という重大な権利を奪うのだから。日本の司法は権利を奪うことについて慎重になる場面は珍しくはない。廃除についても司法は慎重な立場を取っている。そう簡単に廃除は認められないのである。

口頭での廃除であり形式的要件を満たされておらず、かつ、廃除の事由に該当はしないと実質的な要件を満たしていない状況において竜也さんの相続権は奪われていない。