夫婦が「心穏やかに生涯を全うできる」受け取り方とは?

「繰り下げと一口に言ってもいろいろな選択肢があります。天城さんも奥さんも老齢厚生年金と老齢基礎年金を受給されることになりますが、それぞれが単独で繰り下げ可能です。私がお勧めしたいのは、むしろ奥さんの方の年金の繰り下げです」

私でなく妻の年金の繰り下げるですって? 意表を突くアドバイスに口あんぐりの私に、照岡さんは理路整然とその理由を説明してくれました。

「天城さんは住宅ローンを払い終えていて、1500万円の退職金はそのまま預金してあり、他に評価額500万円の投資資産もお持ちです。今の支出ペースのままで年金生活に突入しても、毎月の収支はトントンです。将来ご夫婦のどちらかが要介護になったとしても、介護保険のサービスを使えば今の貯蓄から払っていけるでしょう」

「仮に天城さんと奥さんが今の日本人の平均寿命まで生きたとすると、心配なのは天城さんより7年は長生きする奥さんが1人になった後の生活です。奥さんは天城さんの遺族年金が受け取れますが、天城さんが繰り下げ受給をしても、遺族年金は繰り下げ分を加味しない本来の年金額をベースに計算されます。そもそも遺族厚生年金の額は亡くなった人が受け取っていた老齢厚生年金の4分の3ですから、天城さんの存命中とのギャップが大きくなります」

「固定資産税や光熱費などの負担は1人でも2人でも変わりませんから、奥さんが1人になった時に受け取る年金額をなるべく増やしておく方がいい。奥さんの年金の繰り下げは、その極めて有効な対策になります」

自分の年金額を増やすことで頭が一杯だった私にはない発想でした。

「一度、ご夫婦で話し合ってみてはいかがですか? 奥さんが自分の年金は自分で使うとおっしゃるならそれまでですが……」と控えめに私の様子をうかがう照岡さんに、「照岡さんのご提案は説得力があるし、最終的には妻のためになるんだから妻が反対するはずがありません。妻は究極の現実主義者、合理主義者なんです」と返すと、それが照岡さんのツボにはまったのか、ひとしきり、2人で大笑いしました。

実際、私がその日持ち帰った資料を見た直後から、妻は早速繰り下げ受給の検討に入ったようです。私の方は65歳から年金を受給し、家計に余裕がある間は一部を今年から始まった新NISA(少額投資非課税制度)で運用し、インフレに備えることを考えています。

私も妻も納得できる極めて現実的な提案をいただいたおかげで、頭の中のもやもやが一気に晴れました。「こんなことなら、もっと早く照岡さんに相談すれば良かった」と少々後悔した次第です。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。