初めての投資に向かう理由とは?
石田に誘われるままに席を移した明日香は、約15年ぶりの再会を祝うと、その後の消息を互いに語り合った。石田は、証券会社への就職はかなわず、今はFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の仕事をしているという。「FAというのは、お客さんの立場に立って金融サービスについてのアドバイスをする仕事だ」と石田は胸を張った。石田の所属する事務所は複数の証券会社と提携し、相談相手である個人の顧客の意向を確認した上で、その人の「ファイナンシャル・ゴール」の実現に資すると考えられる商品をピックアップして提案するのだそうだ。ちなみに、石田が話していた相手は、石田と交際しているという佐山詩織(33歳)だった。詩織が資産形成を始めるにあたって、何から始めればよいのかということを石田に相談していたという。
「詩織ちゃんは、最近の物価高に対抗するには、株式投資とか不動産投資が必要なのではないかと言い出したんだよ。良いセンスしてるでしょ」と石田はニコニコして明日香に詩織を紹介した。石田と詩織は石田の勤める会社が開いた資産運用セミナーで知り合い、ともに釣りやグランピングなどのアウトドア活動を趣味にしていることで親交を深め、今では、互いの親も公認の交際相手になっているという。その日は、石田の父親が交通事故に巻き込まれて入院する大けがをしてしまったため、その見舞いに2人でそろって行ってきたところだという。ちなみに、石田の実家は石田の兄が家業を継いで創業120年になるという乾物屋を切り盛りしていた。
「ただ、詩織ちゃんは、これまで銀行預金しかしたことがないから、何から始めればいいのかがわからないという話だったんだ」と、それまでの話の内容を簡単に紹介し、「だから、難しく考える必要ないという話をしていたところ」だという。
デフレ時代の預貯金はどうするのが正解?
もちろん、明日香も玉枝とはよく「日本人の預貯金偏重は変えられないのか」という話をすることがあった。ただ、明日香が玉枝と話しているのは、デフレ経済では、時間が経過するほどにモノの価値が減じていくので、手元にある現金をずっと保有していればいるほど、お金の価値が上がっていくことは事実だが、それでも、何もしないで現金で置いておくことは、せっかくのチャンスを無駄にしていることに等しいという話だった。その玉枝との話とは……。
後編【日本人は「やっぱり現金」デフレ経済下で投資をしなかったのは“誤った選択”だった?】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。