とめどない承認欲求

政和に“垢バレ“した3日後、さゆりがわざわざ消すまでもなく、〈リリーズ・キッチン〉のアカウントは凍結した。なんでも投稿サイトの規約が変更されたらしく、さゆりの投稿動画が”過度に性的なコンテンツ“だと判断されたらしい。

さゆりはアカウントを削除し、政和にかたちだけの謝罪をした。

下品だなんて、言われなくたって分かっている。視聴者が料理ではなく、胸元を見に来ていることだって知っている。

それでも無味乾燥で、自分がいてもいなくてもいいんじゃないかと思えるような日々よりはマシなのだ。

仕事に行く政和を見送り、さゆりは着替えとメイクを済ませる。スタンドにスマホをセットし、Bluetoothのリモコンで写真を撮る。

 もう少し下からのアングルがいいだろうか。椅子に座り、足を組んでみるのもいいかもしれない。

さゆりは50枚近く撮った写真から最も際どいアングルのものを選び、SNSに投稿する。

アカウント名は〈奥さまのマネキンS〉。投稿欄には毎日のコーディネートを撮影した、斜め下アングルからの写真が並んでいる。

写真を投稿してすぐに”いいね”のハートが乱れ飛ぶ。世界中から「キレイ」「興奮する」「今日もおしゃれだね」と称賛の言葉と視線が向けられる。

なんて気持ちがいいのだろう。

さゆりは新しい衣装を新調しに、夫に内緒で家を出る。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。