登録者数1000人超えのアカウントに
チャンネル登録者数が1000人を超えたのは、動画投稿を始めて季節が3回変わろうとするころだった。
1000人という数字は、何万といる動画投稿者のなかの上位15%に入る数字らしい。まだランチ1回分くらいの広告収入しか入っていないが、それでも自分の存在が世の中に認められたようでさゆりは興奮した。
とはいえ、視聴者の全員が料理の手際やレシピを楽しみにしてくれているわけではないことも分かっている。身体のラインが出る洋服を選び、規約に違反しない範囲で胸元をはだけさせて料理をしているのは、そういう動画がウケると実体験が証明してくれているからだった。
〈味見をするときは口元だけでも映してほしいです!〉
〈瓶を開けるときの声がすてきです〉
下品だと思うし、嫌悪を感じることもある。一体40過ぎのただの主婦に、何を期待しているのかとあきれもする。けれどそれら負の感情をすべて足しても、再生回数が回り、コメントがつき、微々たる広告収入を手に入れる快感には遠く及ばなかった。
動画撮影のために普段は絶対選ばないような露出度の高い洋服を買い、より色っぽく見えるようにと撮影時はいつも真っ赤なリップをつけた。
画面の向こうの視聴者が何を楽しみにしているかは関係がない。増え続ける再生回数とチャンネル登録者数がさゆりを満足させてくれた。