<前編のあらすじ>
専業主婦のさゆり(42歳)は、大手銀行で働く政和を夫にもち、私立中学に通う娘がいる。田園都市線沿いのマイホームで何不自由ない暮らしをしているが、娘の中学受験も無事に終わり、気が抜けた半面退屈をしていた。友人に、「うまくいけばお小遣い稼ぎくらいにはなるかも」と勧められ、SNSで得意な料理の動画投稿を試みるが……。
●前編:「うまくいけばお小遣い稼ぎに…」専業主婦の承認欲求を満たすサービスとは?
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身体のラインが出るブラウスを着て、胸元のボタンはいつもより1つ多く開けておく。エプロンはウエストラインに合わせてひもをしっかりと縛る。さゆりは右手に持ったBluetoothのリモコンで、目線より高い位置にこちらを見下ろすように取り付けられているスマホの動画録画を開始する。
「こんにちはぁ~。リリーです。今日の献立は、〈marumi53〉さんからリクエストをいただいたチキンカツレツ。揚げ物ってみんな大好きだけど、家で作るってなると手間もかかるしハードル高いって思っちゃいますよねぇ」
さゆりは少し前かがみになりながら導入のせりふを話していく。前はカメラの外にメモを貼り付けて読み上げていたのだが、今ではもう慣れたもので、メモなんてなくても滑らかに話すことができる。
手順やポイントを説明しながら料理を進めていく。カッティングボードの上や鍋を手で指し示す。さりげなく前かがみになったり、口元を映し込むことも忘れない。動画を撮りながらも、テロップの入れ方を想定しつつ手の角度や動きを調整することだってお手の物だ。
今回はどれくらいの再生回数が回るだろうか。コメントはどれくらい増えるだろうか。不安と高揚の混ざるひりついた緊張がさゆりの脳をしびれさせている。
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