安定配当の超優良株の転落
玉枝は、頼まれると嫌と言えない性格でもあり、運用のことで相談に乗ってほしいといわれて、嫌とはいわなかった。その週末に静かなカフェで玉枝と会った小笠原は、「私も全面的に信用しているわけではないのですが、半年以上にわたって約束通りの成果を出しているのだから、今後も継続的に同じような成績を出していけると感じています。それは、おかしいですか?」と尋ねた。玉枝が答えたのは、「半年や1年で運用商品の良しあしは判断できない。東京電力は40年以上にわたって1株当たり50円の配当を続けていたけど、突然無配になった」と話した。
出所:東京電力のIR資料等に基づき筆者作成
東京電力は、2000年ごろまでは国内上場株式の中で安定配当、安定株価の代表的な存在といえた。実際に、東京電力の配当金は、ずっと1株当たり年間50円だった。オイルショックなどで一時的に減配されることはあったが、1999年に至るまで50円を継続する。40年以上にわたって1株あたり50円の配当を続けていた。そして、2000年以降は1株当たり60円に増配する。その当時、東京電力はトヨタ自動車と並んで個人投資家が投資したい株式のトップに君臨していた。株価の方は、1983年までは1000円前後の株価だったものが、バブル時には9140円(1987年)という高値を記録し、バブル崩壊によって2020円(1999年)まで下落するなど、大きな変動を経験したものの、配当だけは安定していた。40年、50年と続いていた配当が、東日本大震災の折の原発事故で一気に無配(配当ゼロ)に転落し、いまだに復配のめどが立たない状況が続いている。
出所:東京電力のIR資料等に基づき筆者作成
玉枝は言う、「10年単位で物事をみていくと、世の中は何が起こるかわからないということが実感できる」と話し、コーヒーを飲み干した。「『ほったらかし投資』は良くない。世の中に永遠なんていうものはないのだから、必ず運用状況をチェックする必要がある。そのためには自分が実質的に何に投資しているのかを知っていなければならない。運用の中身がわからないものに投資し続けるのは良いことではない」と戒めた。