がらっと変わった世界

「想伝ミステリー新人賞」の受賞が決まってから、間宮の人生は一変した。受賞の翌月には賞金300万円が口座に振り込まれ、受賞パーティーでは昔から憧れていた有名ミステリー作家たちから称賛と激励を受けた。出版された受賞作はなかなか売れ行きも良く、初版が出た数ヶ月後には重版が決まった。

受賞を真っ先に伝えたのは、故郷である福島県に1人で住んでいる母親だった。電話で受賞したことを報告すると、心から喜んでくれた。これまで、ずっと心配をかけてばかりだったが、40歳になって初めて親孝行ができた。そういえば、最近は年のせいか寒さが堪えると言っていた。まとまったお金も入ったし、実家の断熱リフォームをしてあげようか。

賞金が振り込まれた直後、間宮は会社を退職した。小説家として生きていけるめどがたった以上、自分を冷遇する会社で働き続ける意味はなかった。峰という想伝出版の編集者からは「小説家は不安定な仕事だし、会社は辞めない方がいいですよ」

と忠告されていたが、なにを言っているのかと思った。退職すれば自由時間が圧倒的に増え、執筆のための時間も十分に確保できる。

●忠告を無視して会社を辞めてしまった間宮は問題なく生活していけるのだろうか。 後編【「脱サラ失敗」で生活困窮した男を前向きに変えた“屈辱的な出来事”にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。