<前編のあらすじ>

ミステリー作家になるのが夢だった間宮は、40歳になってやっと出版社の新人賞を受賞する。編集担当の「小説家は不安定な仕事だし、会社は辞めない方がいいですよ」という忠告を無視して会社を辞めてしまう間宮だが……。

●前編:「会社は辞めない方がいいですよ」忠告を無視し40歳で脱サラした男が見た“厳しい現実”

立ちはだかる現実

現実は甘くはなかった。編集者の峰の言う通り、小説家というのは本当に不安定な仕事だということを間宮は痛感した。「想伝ミステリー新人賞受賞!」の箔(はく)がついたデビュー作の売れ行きはそこそこ良かったものの、約半年後に出版された受賞第一作の売れ行きは悲惨だった。重版どころか、初版もかなり売れ残る始末だった。

間宮は焦った。新人賞の賞金や受賞作の印税の大半はすでに生活費に消えていた。母親のために実家の断熱リフォームをしたのも痛手だった。あのリフォームで100万円以上消えた。貯金はもう50万円も残っていない。受賞第一作の印税にも期待することはできない。峰の言う通り、あの会社で働き続けていれば、少なくともお金に困ることはなかったのに……。

やはり、目算が甘かった。有名な小説家であっても、大学で教鞭(きょうべん)をとっていたり、カルチャースクールで小説講座を受け持ったりと副業をしている場合が多い。小説家というのは、それほど不安定な仕事なのだ。それは分かっていたはずなのに、受賞の喜びとあの会社で働くことのストレスが間宮の目を曇らせてしまった。

背に腹は代えられず、間宮は近所のコンビニでアルバイトをすることにした。母親にお金を借りようかとも考えたが、そんなことはできなかった。せっかく受賞を喜んでもらえたのに、また心配をかけてしまう。店長は間宮よりもかなり若い男だったが、幸いなことに丁寧に仕事を教えてくれた。「最近はアルバイトさんが足りないので助かります」とのことだった。

しかし、コンビニの仕事はなかなか難しい。レジを打つだけではなく、商品を補充したり、総菜の調理なども並行して行わなければいけない。それでいて時給は安い。いくら店長が親切だとはいえ、こんな仕事をするぐらいなら、あの会社で働き続けた方がはるかにマシだった。後悔の念にさいなまれながら、間宮は週に4回程コンビニで働いた。もちろん、家に帰れば3作目の執筆を進めていた。