ダイニングテーブルの上には、結婚式場のパンフレットと旅行会社の冊子が広がっている。晴香はスマホのメモを開きながら、気になるページに付箋を貼りつけていった。

「ここ、雰囲気いいな。庭もあって、かなり映えそうじゃない」

祐太が式場の資料を1部手に取り、写真を指差しながら明るく言った。

「見積もりは少し高めだけどね」

「まあでも、一生に1回だし」

彼のこういうところは嫌いではない。

慎重になりすぎるきらいのある晴香の隣で、祐太はいつも楽しい景色を見ている。その前向きさに救われることも多いが、それだけではどうにもならないこともある。式場の内金、衣装代、写真、引き出物、新婚旅行。リストアップしてみると、思っていた以上の金額だった。

「旅行はさ、海があるところがいいな」

今度は祐太が冊子をめくりながら言った。

「沖縄とか?」

「いいね。3泊4日じゃ足りないかな。せっかくなら1週間くらい旅したい」

「さすがに1週間は旅費がきついんじゃない」

「まあ、何とかなるでしょ」

あっけらかんと笑う祐太に、晴香の手が止まった。

祐太にまとまった貯金がほとんどないことを知ったのは、同棲を始めたタイミングだ。趣味のキャンプ道具に、ついつい給料を使ってしまうらしい。ただ、毎月欠かさず決まった額の生活費は入れてくれたし、借金があるわけでもないので、特に干渉せずにいた。

しかし、去年結婚が決まったことで、事情は少し変わった。お金のことを真剣に考えるようになり、一緒に結婚資金を貯めようと約束した。以来晴香は家計アプリを入れ、毎月の目標額を決め、少しずつ準備を進めている。

「自動的に何とかなることはないよ。自分たちで何とかしないと」

晴香が言うと、祐太は資料から顔を上げた。

「分かってるって。俺もちゃんとお金貯めるよ」

「うん。式と旅行でまとまったお金を使ったあとは、新生活も始まるからね」

「晴香はしっかりしてるなあ」

祐太は感心したように笑った。褒めているつもりなのだろうが、晴香の心はざわついた。自分は元からしっかりしているのではなく、しっかりせざるを得ないだけだ。

「2人の将来のことだから」

そう言うと、祐太は「そうだな」と返し、またパンフレットをめくり始める。晴香はスマホを開いたまま、メモに並んだ数字を見つめていた。