晴香が抑えきれなかった本音

平日の夜、部屋には洗濯完了を知らせる機械音が響いていた。仕事用のブラウスから部屋着に着替えた晴香は、ランドリーバスケットを抱えてリビングに戻った。祐太は夕食の皿を洗い終えたところだった。

「お疲れ」

「そっちも。お皿、ありがとう」

晴香はそう返し、バスケットを床に置いた。

明日は朝から会議がある。できれば早めに洗濯物を干して、式場から届いたメールにも目を通しておきたかった。そのとき、ソファに腰かけた祐太がスマホを見て声を弾ませた。

「うわ、これめっちゃかっこいい」

「何?」

「新作出てる。ほら、キャンプ用のラック。これ最高じゃない?」

祐太は身を乗り出し、晴香に画面を見せた。黒いフレームの折りたたみ式ラックが、焚き火台のそばに置かれている。

たしかに見栄えはよかった。しかし晴香の目は、自然と価格の欄で止まった。

「高くない?」

「まあ、安くはないけどさ。収納もできるし、テーブルにもなるし。これ1つあったらかなり楽だと思う」

「今は、買うタイミングじゃないでしょ」

晴香はバスタオルを1枚引っ張り出しながら言った。

「いや、でもこれ絶対便利だよ。今使ってるやつ、ちょっとぐらつくし」

「でも使えないわけじゃないでしょ」

「まあ、使えるけどさ。買わないと後悔する気がするんだよな」

普段の晴香なら軽く流せたかもしれない。しかし今は、結婚式の見積もりや新婚旅行の費用が頭から離れなかった。

「今それを買わなかったことより、結婚式のお金が足りなくなるほうが後悔すると思うよ」

そう言うと、にわかに祐太の表情が曇った。

「足りなくなるって、大げさじゃない?」

「大げさじゃないよ。この前一緒に見たでしょ。式場も旅行も、思ってたよりお金がかかるの」

「だから、これから貯めるって言ってるじゃん」

「『これから』って、いつ?」

思ったより棘のある言い方になった。祐太は真顔になってスマホを膝の上に伏せる。雰囲気が険悪になりつつあることに気づいても、晴香はもう自分を止められなかった。

「祐太、ほとんど貯金ないよね。だから結婚に向けて準備してるのに、なんか私だけ節約とか貯金とか気にしてるみたいで、正直しんどい」

「そんな言い方しなくてもいいだろ。まだ買うって決めたわけじゃないし」

「でも、そう言っていつも結局買うじゃない。だから貯金できないんだよ」

「何だよ、それ」

明らかに祐太の声が低くなった。晴香の中で、疲れと不安が一気に膨らんでいく。

「キャンプ用品だけじゃないよ。服とか小物も、セールだからって理由で買ってるでしょ。2人でお金貯めようって決めたのにさ。祐太が本当に貯金しようとしてるのか分からなくなる」

「それ、俺が何も考えずに金使ってるって言いたいわけ?」

「実際そうでしょ。ちゃんと考えてるなら、30超えて貯金ゼロとかありえないから」

祐太はむっとして押し黙った。晴香も、それ以上言葉を続けられず、リビングには気まずい沈黙が流れた。

部屋の隅では、まだ干されていない洗濯物がバスケットからはみ出している。片づけなければならない仕事が目の前にあるのに、晴香は動けなかった。怒りともどかしさが胸の中で絡まり、ほどけないまま、時間だけが過ぎていった。