<前編のあらすじ>
カフェで働く美月は、在庫管理や発注を巡って店長・田浦から理不尽な嫌味を浴びせられたうえ、独立の夢まで否定されてしまう。積もり積もった感情が爆発した美月は、思わず反論し、その後まもなく店を辞める。
退職後、美月は自分にはまだ開業資金が圧倒的に足りないという現実に直面する。生活費のため、美月はデリバリーのアルバイトを始め、さまざまな飲食店を見て学ぶ日々に入る。
そんな中、配達先の洋食店で店主・柏木に声をかけられた美月は、話の流れで自分の店を持ちたい夢を打ち明ける。柏木はその話を真剣に聞き、配達後にもう一度店へ戻るよう美月に持ちかけたのだった。
●前編【「パワハラとモラハラのオンパレード」夢を否定する店長にブチ切れ!怒りがついに限界を迎えた日】
柏木の意外な提案
「ごめんね。わざわざ時間をもらっちゃって」
美月が店に戻ると、昼の片づけをしていた柏木は手を止めて顔を上げた。
「それで、話って何でしょうか」
「まあ、座ってよ」
美月は手近なイスに腰を下ろした。柏木は水をふたつ汲んできて、美月の前に腰を下ろした。
「うちって今、基本は夜営業。昼は火曜と水曜だけ弁当販売しているでしょ? まあ一番は人手不足っていうのが理由なんだけど、本当は昼も毎日営業できたらな、とは思ってるんだよ」
美月は得心がいった。きっと店を手伝ってくれないかという提案なのだろう。悪くないどころか、むしろありがたい話だった。カフェと洋食屋は少しちがうが、フードメニューの作り方などは大いに参考になるはずだ。
しかし、うなずく準備をしていた美月は、続く柏木の言葉に意表を突かれた。
「間借り営業って知ってる?」
「まがり……?」
すぐには理解できず首を傾げた美月だったが、柏木は嫌な顔ひとつせずに説明をしてくれた。
「そう、簡単に言えば、店を持ってない飲食業が他の店の閉まっている時間を使って、営業するってやつ。よかったら、山城さん、うちを間借りしてカフェやってみない?」
美月はすぐには答えられなかった。言葉よりも先に、なぜか涙が出そうになってしまったから、こぼれないように堪えなければいけなかった。
「あ、もちろんタダってわけじゃないよ。料金はそうだな……固定でもらうと軌道に乗るまでは負担になるかもしれないから、売上の15%とかでどうだろう。一応はコーヒーを淹れるための設備もあるし、このへんはオフィス街も近いから、それなりにコーヒーのテイクアウトの需要とかもあると思うんだよね。山城さんにとっても悪い話じゃないと思うんだ。いきなり店を持つよりもリスクは少ないと思うし。……どうかな。もし山城さんさえその気なら、具体的にいろいろ決めていけたら助かるんだけど」
断る理由なんてなかった。美月は立ち上がり、柏木に向けて深々と頭を下げた。
目にたまった涙のせいで視界はぼやけていたけれど、夢の輪郭はいつにも増してくっきりして見えた。
