「休憩入っちゃいますね」
美月はお客が少なくなったのを確認してから後輩のアルバイトに一言告げて、店の裏にある休憩室を兼ねている事務所へと向かった。
もうこのカフェで働いて3年近くが経つ。働き始めた当初はこんなふうになるなんて思ってもみなかった。
美月が働く店は駅前の大通りから一本入った閑静な路地にある、木目調のインテリアが印象的な小さな個人経営のカフェだ。ハンドドリップコーヒーやカフェラテ、季節のサンドイッチ、手作りの焼き菓子などを出していて、どれも美味しいと評判だ。そのかいもあって、オープンから夕方まで近所の学生や会社員などで賑わっており、地域の情報誌やWebマガジンなどが取材に来ることもある人気店だ。
学生時代、美月はうまくいかない就活のプレッシャーでメンタルを崩していた。そんなとき、ひと息つくことができたのはもともと好きだったコーヒーを淹れて飲む時間だった。
誰かがひと息つくための手助けをしよう――そう思ったのが、就活を辞め、フリーターとしてカフェで働き始めた動機だ。
今はいつか自分の店を持つために、勉強の毎日を過ごしていた。
節約のため自分で作って持ってきている弁当を食べていると、事務所に店長の田浦が入ってきた。美月は田浦のことがあまり得意ではなかった。
「山城さん、昨日の食材の発注なんだけど」
話しかけられた美月は弁当を食べる手を止めた。ホールのリーダー的なポジションを任されつつある美月は、キッチンスタッフと連携しながら、食材の在庫管理をする役割を担っていた。
「発注数、いつもより少ないよね。あれで足りると思ってる?」
田浦はイスに浅く腰掛けながら、見上げているのに見下ろすような、不躾で嫌味な視線を美月へと向けた。けれど美月は困惑していた。つい先日、廃棄が多すぎるとキッチンの志村さんといっしょに田浦から怒られたばかりで、そのときに発注に関する事細かな注意と指示を受け取った。その通りに発注していたはずだったので、美月はすぐに帳簿を確認したけれど、やはり田浦が言った通りに発注はされていた。
