一家崩壊の危機に呆れた言い訳
「本気か? 第一、5000万円も何に使ったんだよ? 歌舞伎町には自分の小遣いで通っていると言ってただろ」
「カイトが『うちの会社に出資しない?』って言うのよ。あのお店の社長、なかなかのやり手で系列のレストランももうかってるみたいだから、いいかなと思って。カイト、今度役員になったらしいのよ」
カイトというのが今、瑞希が入れ上げているホストの名前だ。
想定外のなりゆきに言葉を失った。口座の残高は1500万円を切っている。これでは拓海をアメリカに送り出せない。
「バッカじゃねえの」
隣で怒りを押し殺した声がした。拓海だった。
「40過ぎのおばさんが色気づいてホストにいくら貢いだって、相手はどうせ、いい金づるくらいにしか思ってないからね。なのに、15も若い男にしっぽ振ってさ。これが自分の親かと思うと、ホント情けないよ」
拓海は俺と違って頭がいい。けれど、若いゆえに容赦がない。だから、そのストレートな物言いは尖ったナイフのように相手の心をえぐる。
だが、瑞希もここで「ごめんなさい」と泣き崩れるようなタマではない。
「親に養ってもらってるくせによく言うわ。世の中にはね、苦学生がいっぱいいるの。あんたの大学だって、奨学金もらって、バイト掛け持ちして、0円食堂でランチ食べて生活している人がいるのに、自分のこと、恵まれてるって思わないの?」
「そういうの、論点のすり替えって言うんだよ。今は母さんが勝手に引き出した5000万円の話をしてるんだ。すぐに返してもらってよ!」
「何も知らない学生がバカ言うんじゃないわよ。いったん投資したお金は『急に入り用になったから返して』というわけにはいかないの。1年間は預けるという契約だし」
「じゃあ、僕の留学資金、どうするんだよ?」
「足りない分はローンでも組めば? それが嫌だったら、留学止めなさい。就職してから自分のお金で留学してMBA(経営学修士)を取る人だっているでしょ? あんたもそうすればいいのよ。何もこのドル高、物価高の時にわざわざ行かなくたって……」
「ざけんな! こっちは人生かかってんだぞ!」
今にも瑞希に殴りかからんばかりだった拓海を止めたのは、弟の蒼空だった。