人もうらやむような新婚生活に待ち受けていた落とし穴

退職後しばらくは、新婚生活に追われて過ごした。朝は貴広の昼食用に弁当を作り、掃除・洗濯をし、買い物に出て夕食の支度をする。そんな毎日の中で、佳奈はネットで調べて作れる料理の幅を広げていくことに喜びを感じていた。貴広は、扶養家族ができたことで手当ても付くようになり、扶養者控除を使えて税金が減ったことで手取り収入が増えたことを喜んだ。しかし、そんな生活は3カ月もたたないうちに佳奈にとって退屈なものになっていった。最初は慣れないこともあって、家事のひとつひとつに時間がかかっていたが、1カ月もたたないうちに日中の時間を持て余すようになった。貴広と相談して家事の負担にならない程度にアルバイトをすることにしたのだが、なかなか思うような時間帯で働ける仕事が見つからなかった。

母親に相談もしてみたが、「生活に困っていないなら、無理して働くことはないじゃない」という程度で、「子どもでもできれば時間を持て余すなんてことは言っていられなくなるよ」と笑われた。貴広が帰ってきた時に、母親からいわれたことをそのまま伝えると、「お義母(かあ)さんたち、孫の顔が早く見たいという催促なんじゃないの」とニコニコしていた。後になって思えば、この時に和やかに笑っていられたことが、その後の悲劇につながっていったのだった。

●幸せだった時間は束の間…… どんな悲劇が佳奈を襲ったのか? 後編【恋愛結婚なのに新婚妻を無視… 無断外泊を重ねた夫の“あきれた理由”】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

文/風間 浩